Ep22-235

その瞬間のために生きているのだとしたら。

仕事中の出来事だった

俺はミスってばっかなんだ

何故って、観ている世界が

頭に刺さったままだから。

砂漠の上を歩いていると

その砂の一粒ひと粒まで

俺の頭を吹き荒れて

また嵐が来ない限り

その山は動かないんだ。

車で人を轢きかけた。

交差点ですれ違いざまに

自転車に乗った年配の男性が

ハンカチを落としんたんだ。

車に乗っていた俺は遂にそれを

その老人の元に届けられなかった。

方法はいくらでもあったのに

横たわる多くのリスクを前に

目的達成とその代償の比率との間に

俺はただ取り残された。

果たしてその布繊維は

俺に何を訴えたのか。

必ず彼の元に戻るべき存在なのか

落ちるべくして落ちた存在なのか

全てのパターンから枝分かれする

外界への影響をフラクタル次元から眺める。

そして圧倒的に僕を掴んで離さないのは

時間経過とともに累乗され増え続けていく

ブランチの中で、たったひとつの事実である

現せなかった行動の根と

表したかった気持ちの花だ。

僕はそれを引きずって一キロ余り走った。

ギアチェンジは高速

トランスミッションを脳裏に従え砂漠を駆け抜ける。

ホイルスピンも程々のトルクで砂丘を超えて

見えてくるフラクタル次元の先の景色

衝撃の質量と無意識界が生み出す寓力の圧縮率。

だから今はまるで無重力。

急に飛び込む老人の姿。

それは逆だった。

負に覚醒した脳の処理が早すぎたのだ。

その記号が充分に遠いどころかまだ知覚する必要のないはずのノイズ程度。

彼が病気を持っていて歩みが極端に遅いことも同時に察知していた。

しかし充分に遠いという物理的な余裕が

呼び覚ます想起記号は「老人」

リンクされるのは必然的に

あの場所に置き去りにしたはずの布繊維と老人の砂丘だった。

自転車の老人の挙動の如何にもハンカチを落としてしまいそうな明るく堂々としたボケ具合やフラフラした自転車の軌道がフラッシュバックする。

よぎるのみで岩のような硬さには達しないが

再び後悔や痛みの概念が脳を切り裂いた。

情報の密度が高すぎるその逆風を意識的に遮断し、

再接続先はもちろん

たった今、交差点を横断する

杖を持ってパジャマ姿の

鼻に管を通した

いたわるべき

しかし意識ははっきりとした

芯の強い男性である。

しかし僕と話している彼は

彼の残像に過ぎなかったのだ。

これが俺の生きている世界。

次の瞬間

飛び込んできたのは

赤目の信号だった

嘘だ

だってさっき!

「君の脳の圧力と

物理界の走行速度をもってしても

ここへの到達時間の計算に狂いはなかったね。」

でも僕は貴方の存在を知覚していなかった。

僕の落ち度はそこにある。

「その瞬間での君の判断は間違ってない。そんなことは自分が一番…」

それより今からブレーキを踏んでも間に合う?

それとも、

「安心しろ。うまく踏み込めば交差点の直前で止まれるさ。」

でも老人は??

「ちょうど渡りきったところだからね。」

「大丈夫だよ。」

「全ての出来事はあるべくして…」

ギリギリだった。

止まった場所もタイミングも。

結果、老人にも

観ていた男性にも怒鳴られるだけで済んだ。

ごめんなさい。

俺は如何なるときでも

自分を戒めなけならない存在なのだと

ただただ再びまた自覚するのである。

嫌気ならいくらでも刺す。

重要なのは

より良くありたい気持ちでのみ

それが乗り越えられるという事実であり

全ての方向から招かれ得る絶望とも

常に隣り合わせという点である。

それだけが逆説的かつ本質的に

俺の身を救うことができると同時に

かろうじて自分方向に存在が証明される

細く眩い炎なのかも知れない。

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out /  Change )

Google photo

You are commenting using your Google account. Log Out /  Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out /  Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out /  Change )

Connecting to %s